メトホルミンのダイエット効果は2.8年で平均2.1kg減、痩せ薬としての使用は日本では適応外
メトホルミンで期待できる体重減少は、米国の大規模臨床試験(DPP)で平均2.1kg(2.8年間)1と報告されており、「飲むだけで大きく痩せる薬」ではありません。しかも日本でのメトホルミンの効能・効果は2型糖尿病などに限られ2、ダイエット目的の使用は承認外(適応外使用)です。一方で、半世紀以上使われてきた薬だけにデータの蓄積は豊富で、「なぜ少し痩せるのか」「副作用はどの程度か」も数字で確認できます。この記事では、効果の実際、体重が減る仕組み、下痢や乳酸アシドーシスなどの副作用、GLP-1受容体作動薬との違いを、添付文書と臨床試験データに基づいて整理します。
メトホルミンの体重減少は2.8年で平均2.1kgにとどまり、ダイエット薬としては限定的です
メトホルミンの体重への影響を最も長期間追跡したのが、米国の糖尿病予防プログラム(DPP)とその追跡研究(DPPOS)です。糖尿病予備群の参加者がメトホルミン850mgを1日2回服用したところ、2.8年間で平均2.1kgの体重減少が確認されました1。その後の長期追跡でも、メトホルミン群は平均2.5kg程度の減少を維持しています1。
体重90kg前後の参加者で2kg強ですから、割合にするとおよそ2%台です。「2か月でマイナス10kg」のような変化を期待して飲む薬ではない、というのが臨床試験から言える実際のところです。
- 減少幅:2.8年間で平均2.1kg1。短期間で大きく減るタイプの変化ではありません
- 持続性:服薬を続けた場合、減少は10年以上の追跡でも維持されたと報告されています1
- 個人差:減量幅は服薬をきちんと続けられたかどうかと関連していました8
メトホルミンが体重を減らす仕組みには、食欲を抑えるホルモンGDF15が関わっています
メトホルミンはもともと、肝臓で糖が新しく作られるのを抑えて血糖値を下げる薬です。インスリンの分泌を直接増やすタイプではないため、単独使用では低血糖を起こしにくいという特徴があります。
体重が減る理由として近年注目されているのが、GDF15というホルモンです。2020年にNature誌に掲載された研究では、メトホルミンを服用している人は血中のGDF15濃度が高く、このGDF15が脳に働いて食欲を抑えることが示されました。マウスの実験でGDF15の働きを遮断すると、メトホルミンによる体重減少が見られなくなったことから、「食欲の抑制」が体重減少の主要なルートと考えられています3。
- 肝臓:糖新生(糖を新しく作る働き)を抑え、血糖値を下げます
- 腸:糖の吸収や腸内環境に影響し、消化管ホルモンの分泌にも作用します
- 脳(食欲):GDF15の増加を介して食欲を抑える方向に働きます3
つまり「脂肪を燃やす薬」ではなく、「食欲と糖の流れを少し変える薬」です。減少幅が平均2kg程度にとどまるのは、この穏やかな作用の裏返しといえます。
メトホルミンの副作用は下痢が54.4%と高頻度で、まれに重い乳酸アシドーシスが起こります
メトグルコ錠(メトホルミンの先発品)の添付文書によると、国内の長期投与試験では169例中114例(67.5%)に何らかの副作用が見られました。内訳で多いのは消化器症状です2。
| 症状 | 発現頻度2 | 出やすい時期と経過 |
|---|---|---|
| 下痢 | 54.4%(92/169例) | 飲み始めや増量時に出やすく、少量から徐々に増やすことで軽くなる場合が多いとされます |
| 悪心(吐き気) | 15.4%(26/169例) | 同上。食直前・食後の服用タイミング調整で対処されることがあります |
| 食欲不振 | 14.8%(25/169例) | 食欲を抑える作用と表裏一体の症状です |
| 腹痛 | 10.1%(17/169例) | 持続する場合は医師に相談が必要です |
| 乳酸アシドーシス | 頻度不明(まれ) | 下記の警告参照。起きた場合は重篤です |
GLP-1受容体作動薬の体重減少は14.9〜22.5%で、メトホルミンとは効果の規模が異なります
「痩せる薬」として比較されることが多いGLP-1受容体作動薬と並べると、数字の差がはっきりします。セマグルチド2.4mg週1回注射(ウゴービと同成分)は68週で平均14.9%の体重減少(プラセボ群は2.4%)5、チルゼパチド(マンジャロと同成分)は72週で16.0〜22.5%の減少(プラセボ群は2.4%)でした6。メトホルミンの平均2.1kg(おおむね2%台)1とは、効果の桁がひとつ違います。
| 項目 | メトホルミン | リベルサス(経口セマグルチド) |
マンジャロ(チルゼパチド) |
|---|---|---|---|
| 分類 | ビグアナイド系(飲み薬) | GLP-1受容体作動薬(飲み薬) | GIP/GLP-1受容体作動薬(週1回注射) |
| 臨床試験での体重変化 | 平均−2.1kg(2.8年)1 | プラセボとの差−2.3kg(26週・14mg、2型糖尿病患者)7 | −16.0〜−22.5%(72週)6 |
| 主な副作用 | 下痢54.4%など消化器症状2 | 悪心など消化器症状 | 悪心・下痢など消化器症状 |
| 単独使用での低血糖 | 起こりにくい | 起こりにくい | 起こりにくい |
| 日本でのダイエット(肥満症)目的の承認 | なし(適応は2型糖尿病など)2 | なし(適応は2型糖尿病) | なし(適応は2型糖尿病) |
| 費用感 | 後発品が多く安価 | 高め | 高め(注射製剤) |
なお、肥満症の治療薬として日本で承認されているのは、セマグルチドではウゴービ、チルゼパチドではゼップバウンドという別ブランドの製剤で、処方には肥満症の診断など一定の条件があります。リベルサスやマンジャロも、ダイエット目的での使用は同じく適応外です。
メトホルミンのダイエット利用は日本では適応外で、保険診療では処方されません
メトグルコ錠の添付文書に記載された効能・効果は2型糖尿病(および多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発など)であり2、「肥満症」や「ダイエット」は含まれていません。糖尿病ではない人が痩せる目的で服用するのは適応外使用にあたります。
- 保険適用:ダイエット目的では公的医療保険の対象外です。処方される場合は自由診療で全額自己負担になります
- 救済制度:承認された使い方以外で健康被害が起きた場合、医薬品副作用被害救済制度の対象外と判断される可能性があります
- 医師の判断:適応外処方を行うかどうかは医療機関の方針によります。糖尿病予備群かどうかの検査値(HbA1cや空腹時血糖)を踏まえた判断が前提です
メトホルミンの服用が検討対象になるのは血糖に課題のある人で、健康な人の減量には向きません
DPPの対象はあくまで糖尿病予備群(耐糖能異常のある人)でした1。データが示すのは「血糖に問題を抱える人が飲んだ場合に、糖尿病の発症予防とあわせて体重も少し減る」ということであり、血糖値が正常な人の美容的な減量に使う根拠としては弱いものです。
- 検討対象になり得る人:2型糖尿病や糖尿病予備群と診断され、医師が必要と判断した人
- 向かない人:血糖値が正常で「あと2〜3kg落としたい」という人。期待できる減少幅と消化器症状の頻度(下痢54.4%2)が見合いません
- 使ってはいけない人:eGFR30未満の重度腎機能障害、透析患者、過度のアルコール摂取者、妊婦または妊娠の可能性がある人などは禁忌です2
- 慎重な判断が必要な人:高齢者、肝機能障害のある人、脱水を起こしやすい人など2
メトホルミンは医師の処方が必要な薬で、市販では入手できず個人輸入は避けるべきです
メトホルミンは処方箋医薬品のため、ドラッグストアでは購入できません。国内では後発品が広く流通しており、糖尿病治療として保険適用される場合の薬剤費は低く抑えられています。自由診療で処方する医療機関もありますが、費用は施設ごとに異なります。
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メトホルミンとダイエットに関する疑問の多くは、添付文書と臨床試験データで答えられます
飲み始めてどのくらいで体重が変わりますか?
急激には変わりません。DPPでは2.8年間かけて平均2.1kgの減少でした1。月単位・年単位の緩やかな変化と考えるのが現実的です。
飲むのをやめたら体重は戻りますか?
長期追跡研究では、減量の維持は服薬をきちんと続けていることと関連していました8。薬だけに頼った減量は、中止後に維持しにくいと考えておくのが妥当です。
市販薬やサプリでメトホルミンは手に入りますか?
入手できません。メトホルミンは処方箋医薬品で、医師の診察と処方が必要です。「メトホルミン配合」をうたう海外サプリは品質が確認されておらず、避けるべきです。
お酒を飲みながら服用しても大丈夫ですか?
過度のアルコール摂取者は添付文書で禁忌とされています2。アルコールは乳酸の代謝を妨げ、乳酸アシドーシスのリスクを高めるためです。飲酒習慣がある人は必ず医師に申告してください。
糖尿病ではない人が飲むと低血糖になりますか?
メトホルミン単独では低血糖は起こりにくい薬です。ただし問題の本質は低血糖よりも、適応外使用であること、消化器症状の頻度が高いこと、腎機能の確認が必要なことにあります。
参考文献
1 Diabetes Prevention Program Research Group. Long-term safety, tolerability, and weight loss associated with metformin in the Diabetes Prevention Program Outcomes Study. Diabetes Care. 2012. PubMed
2 メトグルコ錠250mg/500mg 添付文書(住友ファーマ). PMDA. PMDA添付文書PDF
3 Coll AP, et al. GDF15 mediates the effects of metformin on body weight and energy balance. Nature. 2020. PubMed
4 Salpeter SR, et al. Risk of fatal and nonfatal lactic acidosis with metformin use in type 2 diabetes mellitus. Cochrane Database Syst Rev. 2010. PubMed
5 Wilding JPH, et al. Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity (STEP 1). N Engl J Med. 2021. PubMed
6 Jastreboff AM, et al. Tirzepatide Once Weekly for the Treatment of Obesity (SURMOUNT-1). N Engl J Med. 2022. PubMed
7 Aroda VR, et al. PIONEER 1: Randomized Clinical Trial of the Efficacy and Safety of Oral Semaglutide Monotherapy in Comparison With Placebo in Patients With Type 2 Diabetes. Diabetes Care. 2019. PubMed
8 Diabetes Prevention Program Research Group. Long-term Weight Loss With Metformin or Lifestyle Intervention in the Diabetes Prevention Program Outcomes Study. Ann Intern Med. 2019. PubMed
9 厚生労働省「医薬品等の個人輸入について」 厚生労働省